手を繋ぐ。指を絡ませる。視線を合わせる。笑い合う。瞳を閉じる。唇を合わせる。目を開ける。視線を絡める。照れ笑う。
痛みを与えるためでなく、愛情を伝えるために額同士を軽くぶつけ合い、目を伏せながらくすくす笑った。
「好き」
「好き」
溢れ出す気持ちが自然に言葉となって、零れていく。
絡ませた指先をぎゅっと握って。擦るように額を触れ合わせて。どうしようもなく『幸せ』な今を噛み締めて、くすくす嗤う。
己の手には脇差が。
相手の手には苦無が。
たとえそれを封じるためだとしても―――どうしようもなく『しあわせ』な今。
痛みを与えるためでなく、愛情を伝えるために額同士を軽くぶつけ合い、目を伏せながらくすくす笑った。
「好き」
「好き」
溢れ出す気持ちが自然に言葉となって、零れていく。
絡ませた指先をぎゅっと握って。擦るように額を触れ合わせて。どうしようもなく『幸せ』な今を噛み締めて、くすくす嗤う。
己の手には脇差が。
相手の手には苦無が。
たとえそれを封じるためだとしても―――どうしようもなく『しあわせ』な今。
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(女装した伊達さんが書きたかったとかそういう……)
吐き出す己の息も白く染まる冬の夜。
猿飛佐助はバイト先の店から帰る道すがら、待ち合わせ場所として有名な一角で手持無沙汰に濃紺色の携帯を弄っている一人の女に視線を吸い寄せられた。
(うっわ……すっごい美人……)
思わず感嘆のため息が漏れてしまいそうなほど整った顔立ち。肩先まで伸ばされた黒髪は冷たい風になびき、夜中にも関わらず彼女の肌は白磁のように白く滑らかなのが分かる。黒いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳に、気の強そうな薄い唇。
ほっそりとしたシルエットをタートルネックの白いニットで包み、さらにその上からひざ丈のトレンチコートを羽織っている。足元はラインの綺麗な細身のジーンズで、装飾に煌びやかな龍の絵が描かれているのに目が惹かれた。
思わず眼前の美女をじろじろと眺めていると、佐助の不躾な視線に気がついたのか件の美女が目を上げる。
クールと言うには、いささかきつ過ぎるその視線に佐助は一瞬無様にもうろたえたが、美女は何を思ったか佐助を睨んだままスタスタとこちらに向かってきた。
(げっ、)
もしかして、美人特有の気の強さで怒鳴られてしまうのだろうか……。
単に見ていただけなのに、と。すでにこちらの否を認めてしまっている佐助はビクビクしながらも彼女のことを見つめていたが―――なぜか、彼女はするっと佐助の横を通り過ぎて、さらに佐助の後ろに居たと思われる男へと声を張り上げた。
「元親、てめえ……ッ、涼しい顔で他人面してんじゃねえぞ!!」
「おーこわっ。ンだよ、折角おめえのためを思って見守っててやったのによぉ……」
「何が俺のためなんだ、何が!! さっきから気色悪いおやじにばっか声掛けられて、俺の堪忍袋の緒は切れかかってんだ。……歯ァ喰いしばれ」
「つってもよぉ……、これくらいじゃなきゃ罰ゲームになんねえだろ?」
「……っ、」
どうにも聞き覚えのある声に振り替えれば、目に入る鮮やかな銀髪。
見事に佐助をスルーしていった美女(?)が絡んでいるのは、長身の……そして佐助にも見覚えのある男だった。
「あ……」
「―――あん?」
思わず、というように声を漏らせば相手も佐助に気がついたのかニヤけた視線をこちらへと流してくる。
そして流れる沈黙。
急に行動停止した男を訝しげに眺めていた美女が、男の視線を追ってこちらを振り返った―――刹那、男……同じ学校の隣のクラスに所属する生徒である長曾我部元親は佐助が誰か思い至ったのか、片方しか露わになっていない目を大きく見開いて無作法に指をさして叫んだ。
「おめえ、隣のクラスの風紀委員……ッ」
その言葉に一番驚いたのは、佐助でもなく元親でもなく、けぶるようなまつ毛に縁取られた瞳を大きく見開いた件の美女だ。
「げ……っ!」
そして小さな呻き声をあげ、逃走を図ろうと身を翻した……のだが、その前に元親の腕に捕らえられてこの場に居続けるしかなくなったらしい。
まさに挙動不審というようにオドオドと視線を彷徨わせ、なんとか元親の腕から逃れようと暴れている。
「は、はなせクソったれ!!」
「あー、なー。バレちまったもんはしゃあないって。おめえも腹ぁ決めろよ」
「決められるか!!! 放せクソチカ!!!」
それまで呆然絶句状態の佐助だが、ようやくその一言で我に帰る。
「……てかさ、」
おそる、おそる、と言うように窺う佐助に美女の顔がさぁあっと青ざめる。
「―――伊達さん……?」
彼女……否、彼の名は伊達政宗。元親と同じく、同じ学園の隣のクラスに所属するれっきとした男子高校生だった。
***
「や、ほんとビックリしちゃったよ」
「俺もまさかンなとこで同じ学校の奴に遭うとは思わなかったぜ」
「……殺す、ぜってえ殺してやる」
「それにしても、なんで女装? ……まさか、伊達さんの趣味なん――」
「それ以上言ってみろ。ドスとチャカ持った人間をここに呼んでやる」
「……冗談です」
場所は変わって、カラオケボックス。
吐き出す己の息も白く染まる冬の夜。
猿飛佐助はバイト先の店から帰る道すがら、待ち合わせ場所として有名な一角で手持無沙汰に濃紺色の携帯を弄っている一人の女に視線を吸い寄せられた。
(うっわ……すっごい美人……)
思わず感嘆のため息が漏れてしまいそうなほど整った顔立ち。肩先まで伸ばされた黒髪は冷たい風になびき、夜中にも関わらず彼女の肌は白磁のように白く滑らかなのが分かる。黒いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳に、気の強そうな薄い唇。
ほっそりとしたシルエットをタートルネックの白いニットで包み、さらにその上からひざ丈のトレンチコートを羽織っている。足元はラインの綺麗な細身のジーンズで、装飾に煌びやかな龍の絵が描かれているのに目が惹かれた。
思わず眼前の美女をじろじろと眺めていると、佐助の不躾な視線に気がついたのか件の美女が目を上げる。
クールと言うには、いささかきつ過ぎるその視線に佐助は一瞬無様にもうろたえたが、美女は何を思ったか佐助を睨んだままスタスタとこちらに向かってきた。
(げっ、)
もしかして、美人特有の気の強さで怒鳴られてしまうのだろうか……。
単に見ていただけなのに、と。すでにこちらの否を認めてしまっている佐助はビクビクしながらも彼女のことを見つめていたが―――なぜか、彼女はするっと佐助の横を通り過ぎて、さらに佐助の後ろに居たと思われる男へと声を張り上げた。
「元親、てめえ……ッ、涼しい顔で他人面してんじゃねえぞ!!」
「おーこわっ。ンだよ、折角おめえのためを思って見守っててやったのによぉ……」
「何が俺のためなんだ、何が!! さっきから気色悪いおやじにばっか声掛けられて、俺の堪忍袋の緒は切れかかってんだ。……歯ァ喰いしばれ」
「つってもよぉ……、これくらいじゃなきゃ罰ゲームになんねえだろ?」
「……っ、」
どうにも聞き覚えのある声に振り替えれば、目に入る鮮やかな銀髪。
見事に佐助をスルーしていった美女(?)が絡んでいるのは、長身の……そして佐助にも見覚えのある男だった。
「あ……」
「―――あん?」
思わず、というように声を漏らせば相手も佐助に気がついたのかニヤけた視線をこちらへと流してくる。
そして流れる沈黙。
急に行動停止した男を訝しげに眺めていた美女が、男の視線を追ってこちらを振り返った―――刹那、男……同じ学校の隣のクラスに所属する生徒である長曾我部元親は佐助が誰か思い至ったのか、片方しか露わになっていない目を大きく見開いて無作法に指をさして叫んだ。
「おめえ、隣のクラスの風紀委員……ッ」
その言葉に一番驚いたのは、佐助でもなく元親でもなく、けぶるようなまつ毛に縁取られた瞳を大きく見開いた件の美女だ。
「げ……っ!」
そして小さな呻き声をあげ、逃走を図ろうと身を翻した……のだが、その前に元親の腕に捕らえられてこの場に居続けるしかなくなったらしい。
まさに挙動不審というようにオドオドと視線を彷徨わせ、なんとか元親の腕から逃れようと暴れている。
「は、はなせクソったれ!!」
「あー、なー。バレちまったもんはしゃあないって。おめえも腹ぁ決めろよ」
「決められるか!!! 放せクソチカ!!!」
それまで呆然絶句状態の佐助だが、ようやくその一言で我に帰る。
「……てかさ、」
おそる、おそる、と言うように窺う佐助に美女の顔がさぁあっと青ざめる。
「―――伊達さん……?」
彼女……否、彼の名は伊達政宗。元親と同じく、同じ学園の隣のクラスに所属するれっきとした男子高校生だった。
***
「や、ほんとビックリしちゃったよ」
「俺もまさかンなとこで同じ学校の奴に遭うとは思わなかったぜ」
「……殺す、ぜってえ殺してやる」
「それにしても、なんで女装? ……まさか、伊達さんの趣味なん――」
「それ以上言ってみろ。ドスとチャカ持った人間をここに呼んでやる」
「……冗談です」
場所は変わって、カラオケボックス。
燦々(さんさん)と太陽光が降り注ぐ中、佐助は人目に憚ることなく大きな欠伸をひとつ零す。
九尾狐である佐助は闇に生きる種族だが、別に日の光が駄目なわけではない。琥珀のように色素の薄い虹彩には太陽の光は眩しすぎるというだけで、太陽光を浴びたからといって灰になって消滅したりはしないのだ。
清々しすぎるほど澄み切った森の匂いを肺一杯に吸い込みながら向かうのは、お気に入りの丘の上。
人里離れたその丘は眼下に花畑が広がっており、季節を問わず芳しい花の香りに満ちている。こんなに天気の良い日なら、転寝をしにその丘へと足を運ぶのが佐助の日課でもあった。
冷たくも心地良い風がふわふわと髪を弄ぶ中、ふっと視線を上げた先、目的の丘に先客の姿を見つける。
青々とした草の上に寝転がった、極彩色にも塗れることのない闇の色。期せずとしてお気に入りの姿を見つけた佐助は、ゆったりと口の端を綻ばせながらも気配を殺してその影へと近寄った。
一歩、二歩と。
佐助が足を進めているにも関わらず、影はこちらへと背を向けたままぴくりともしない。一体何をしているのやら。佐助は気配を悟らせぬように慎重に歩を進めると、影の側で静かに止まった。
(相変らず無防備なこって……。俺じゃなかったら、どうするつもりなんだろねぇ)
悪い妖怪に見つかれば、ぺろりと喰われてしまうかもしれないのに、と。自分のことを棚に上げながら微笑むと、佐助は足元で丸くなっている影へと眼を向けた。
十歳かそこらにしか見えない少年の姿へと変化した妖怪は、気を緩めているせいか獣耳と尾っぽを付けたままという、なんともお粗末な姿で目を閉じている。
暖かな日の光に包まれて幸福なのか、ぴくぴくと耳をそよがせながら体を丸めている姿はひどく微笑ましい。
無防備さをからかってやろうと思っていた佐助だが、本物の仔猫のように眠る妖怪――猫又である政宗の寝顔を見て気が変わり、相変らず気配を殺したままでそっと政宗の横へと腰を降ろした。
人狼の小十郎が過保護に育てているせいか、政宗からはいつまでたっても幼さが抜けない。
いくら自分の養い親である小十郎の縄張りだからと言って、佐助のような不届き者が侵入してくる可能性だって高いのだ。こんなに無防備な姿で眠っていては、襲ってくださいと主張しているようなものだろう。
(ま、俺は悪い妖怪だから遠慮なくお言葉に甘えさせて貰うけど)
にやり、と口の端を歪めた佐助は上体を折り、時折ぴくぴくと揺れる政宗の耳へと唇を近づける。
「……ん、」
毛の流れに合わせて毛づくろいをするように舌を這わせ、むず痒そうに動いた耳の先端を柔く噛む。
政宗はきゅっと眉を寄せたが、そのまま起きる気配はなく、佐助は内心ほくそ笑みながらも無遠慮に毛づくろいを続けていった。
耳が終わった後はこめかみへと移り、産毛を梳くように優しく舐める。暖かな日差しの中で行なわれる毛づくろいが心地いいのか、眠ったままの政宗が喉を鳴らすのが、癖になりそうなほど愛しく感じた。
初対面の悪印象のせいか、政宗は佐助が構うたびに毛を逆立てて威嚇してくるばかり。たまにはこんな風に可愛い姿も見せてもらいたいものだと思いながらも、佐助は愛情を込めて政宗に優しく毛づくろいを施してゆく。
目を覚ました政宗が、顔を真っ赤に染めながら牙を向いたのは、もう少しだけ先のおはなし。
九尾狐である佐助は闇に生きる種族だが、別に日の光が駄目なわけではない。琥珀のように色素の薄い虹彩には太陽の光は眩しすぎるというだけで、太陽光を浴びたからといって灰になって消滅したりはしないのだ。
清々しすぎるほど澄み切った森の匂いを肺一杯に吸い込みながら向かうのは、お気に入りの丘の上。
人里離れたその丘は眼下に花畑が広がっており、季節を問わず芳しい花の香りに満ちている。こんなに天気の良い日なら、転寝をしにその丘へと足を運ぶのが佐助の日課でもあった。
冷たくも心地良い風がふわふわと髪を弄ぶ中、ふっと視線を上げた先、目的の丘に先客の姿を見つける。
青々とした草の上に寝転がった、極彩色にも塗れることのない闇の色。期せずとしてお気に入りの姿を見つけた佐助は、ゆったりと口の端を綻ばせながらも気配を殺してその影へと近寄った。
一歩、二歩と。
佐助が足を進めているにも関わらず、影はこちらへと背を向けたままぴくりともしない。一体何をしているのやら。佐助は気配を悟らせぬように慎重に歩を進めると、影の側で静かに止まった。
(相変らず無防備なこって……。俺じゃなかったら、どうするつもりなんだろねぇ)
悪い妖怪に見つかれば、ぺろりと喰われてしまうかもしれないのに、と。自分のことを棚に上げながら微笑むと、佐助は足元で丸くなっている影へと眼を向けた。
十歳かそこらにしか見えない少年の姿へと変化した妖怪は、気を緩めているせいか獣耳と尾っぽを付けたままという、なんともお粗末な姿で目を閉じている。
暖かな日の光に包まれて幸福なのか、ぴくぴくと耳をそよがせながら体を丸めている姿はひどく微笑ましい。
無防備さをからかってやろうと思っていた佐助だが、本物の仔猫のように眠る妖怪――猫又である政宗の寝顔を見て気が変わり、相変らず気配を殺したままでそっと政宗の横へと腰を降ろした。
人狼の小十郎が過保護に育てているせいか、政宗からはいつまでたっても幼さが抜けない。
いくら自分の養い親である小十郎の縄張りだからと言って、佐助のような不届き者が侵入してくる可能性だって高いのだ。こんなに無防備な姿で眠っていては、襲ってくださいと主張しているようなものだろう。
(ま、俺は悪い妖怪だから遠慮なくお言葉に甘えさせて貰うけど)
にやり、と口の端を歪めた佐助は上体を折り、時折ぴくぴくと揺れる政宗の耳へと唇を近づける。
「……ん、」
毛の流れに合わせて毛づくろいをするように舌を這わせ、むず痒そうに動いた耳の先端を柔く噛む。
政宗はきゅっと眉を寄せたが、そのまま起きる気配はなく、佐助は内心ほくそ笑みながらも無遠慮に毛づくろいを続けていった。
耳が終わった後はこめかみへと移り、産毛を梳くように優しく舐める。暖かな日差しの中で行なわれる毛づくろいが心地いいのか、眠ったままの政宗が喉を鳴らすのが、癖になりそうなほど愛しく感じた。
初対面の悪印象のせいか、政宗は佐助が構うたびに毛を逆立てて威嚇してくるばかり。たまにはこんな風に可愛い姿も見せてもらいたいものだと思いながらも、佐助は愛情を込めて政宗に優しく毛づくろいを施してゆく。
目を覚ました政宗が、顔を真っ赤に染めながら牙を向いたのは、もう少しだけ先のおはなし。