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2026/04/08 19:46 |
あおばにねがう
▼書きかけ発掘。続き未定▼



 あんたを好きだなんて思ったこと、一度もない。
 ただの一度も、一瞬さえ。
 思うままに生きているあんたが嫌いだったし、俺の全てを見透かしたようなその笑みも心底厭わしく感じていたから。
 早く目の前から消えて欲しくて、何度その細っこい首に刃を付きたてようとしたか分からない。
 けれどそう思うたび、思うたび。何故かあんたは隠しているはずの俺の心に気付いたかのように、いつもよりも酷く儚げに微笑んで、俺を呼ぶ。
 ―――殺して欲しいのか?
 勘違いしてしまいそうなほどにあどけない、その笑み。
 聞きなれない甘い声で俺の名を呼んで、己の胸に招き入れるかのように両腕を広げて、俺を呼ぶ。
 さぁ、早く。はやくこの生を止めてくれと言わんばかりのその仕草。
 だから、俺は―――。
 あんたを殺す事なんて出来なかったんだ。






<――――――あおばにねがう。>






 雨が降ると草の匂いが強くなる。そんな日が佐助は嫌いじゃない。
 勿論、雨が降ったからといって仕事が無くなることも無し、いつもと同じようにせっせと働かなくてはいけない事には変わりはないのだが、ヒトの匂いを洗い流して、ただ自然の匂いだけを際立たせる雨の世界は何故か佐助に優しくて。濡れそぼる足元には辟易としつつも、滅多には味わえない心地よさを佐助は一人噛み締めていた。
 佐助に与えられた今回の任務は、奥州の国境(くにざかい)にある『境の明神』として有名な住吉神社で待つ男に、密書を渡す事だった。
 『境の明神』はこちら――関東側と奥州側とではそれぞれ祭る神が違い、関東側では男神である筒男命(つつのおのみこと)、逆に奥州側では女神衣通姫(そとおりひめ)を祭っている事で有名である。国境という事で武装した兵士が数人神社の境を固めてはいるが、行商人に紛れてしまえば入れないこともない。
 ―――第一、忍として長く働いている佐助ならばもっと侵入が困難な場所でさえ潜り込むことが出来るのだから、それも杞憂と言ったところだろう。
 何にせよ。今日中に住吉神社まで足を運び、つなぎの者と連絡を付けなければならない事に変わりはない。本来ならば、のんびりと雨の臭いを楽しみながら街道を進んでいきたいところだが、そうもいかないのが現状か。一つ大きな息を吐き出した佐助は、背中に抱えた薬箱――今日の変装は薬売りなので――を抱えなおして、視界の悪い道をしかし難も無く進んでいった。

 基本的に戦忍として武田に仕えている佐助は、普段はこんな雑用めいた事には手を出さない。―――人遣いの荒い主に、こき使われるのを除いては……だが。
 敵地にまで侵入して接触しなければならない密偵の類と会うのならば別だが、今日の用事はただのお遣い。しかも至極私用の。
 あの主にしてこの大将あり、と言えばいいのか悪いのか。佐助の体の良い脚代わりに使用してくれるのは、ありがたい事に己の主だけの特権ではないらしい。
 先日、急に信玄に呼び出された佐助は、すわ一大事かと内心慌てていたのだが、何のことはない。近頃は近隣諸国の勢力が拮抗して、互いににらみ合いを続けているおかげで平穏な日々が続いている。それを「つまらん」と言い出した不届き者が一人居て。更にそれを「なら上杉殿とこの機会に、」と横から煽ってくれた馬鹿まで居て。見事佐助は与えられていた休暇を返上させられて、こんな遠くまで足を運んできているわけなのだが。
 戦馬鹿は死んでも治る事は無いと言っていたのは誰だったのか。言いえて妙であると納得するには、まだこの仕事に納得できない佐助だが、つなぎの者に仕事を明け渡してしまった後にはお待ち兼ねの休暇が待っているのだからと、無理矢理に己を鼓舞してみる。
 さもなければ、まるで子どもの遣いをしているようで悲しくなる。
 気を使う仕事ばかりを与えられて、精神的に磨耗していくのもどうかと思うが、己の存在価値を疑うほどの簡単な任務を与えられるのもどうなのかと、佐助は思ったりするのだが。そのあたりの佐助なりの機微があの豪胆――はっきり言えば、鈍感――な男たちに伝わるわけも無い。

 住吉神社で待っているという男はすぐに見つかった。
 頼まれていた文を男へと渡し、二三言葉を交わせば任務は終了。なんとも呆気ない。一つの仕事を終えたのに、この開放感の無さは何なのかと嘆きたくなるほどに、呆気ない。
 次の任務は数日後。
 今度は逆に上杉から来る文を、佐助が甲斐へと持ち帰る手はずになっているのだが、この分ならばその仕事の方も悲しくなるほど呆気なく終わってしまいそうな予感がする。
 二つの任務の間を休息日として与えられている佐助だが、いっそそのあたりに居るだろう仲間に仕事を譲り渡してもう少しのんびりと現実逃避をしていたい。―――いや、本気で。
 出来もしないことを考えている時点で、現実逃避を始めているのだと気付けない佐助はぐるりと神社の景色を見渡す。
 雨が降っているせいでやはり参拝者は少なく、せいぜい二、三人がいいところだろう。この分では反対側に位置する玉津島神社でも同じような塩梅なのだろう、と。興味本位で視界を巡らせた先でしかし、佐助は思っても見ないものを目にする事になる。

『え、女……?』

 雨のせいで霞む視界に飛び込んできたのは、美しい藍色を地にした煌びやかな打掛け。雨を吸ったそれはひどく重そうで、けれど濡れて深い紺青に染まっている箇所は瞠目するほど美しく、思わず佐助は目を瞠る。
 豪奢な打掛けは位の高い証。そんな人間がこんな雨の中、しかも一人で神社を詣でているとは一体全体どういう事か。
 女は何を願っているのか、先程からお堂の中に顔を向けるばかりで動きもしない。佐助は忍だ。仕事柄、許されていない人間と会話をする事は出来ない。それは他国の忍が偵察に来ているとどんな事から漏れるかわからないし、人間の印象に残らないようにという配慮でもあるのだが、その忍という性質ゆえ、佐助の好奇心は強い。
 普段なら木の上からでもその行動を把握させてもらうところだが、生憎と今日は雨。視界が優れないこの中で、遠くからの観察は難しいだろう。
 一歩、二歩と。
 どんな声を掛けるかと、佐助はぼんやり考える。
 身分の高い女に声を掛けることは、本来ならば無礼に当たる。ただ今は、それを罰する護衛が居ないからこそ無駄なちょっかいを掛けることにしたのだが、はてさて一体どうしたものか。
 自尊心の高い女なら、身分違いに声を掛けられる事を厭うだろう。こういう時に浪士の格好をしておけば何かと便利だったのだが、佐助は見た目が細身で軟弱に見えるため正直武士の格好は似合わない。大抵行商人か、猿回しなどの放下師に化ける事が常だったりする。そのため、こんな格好で位の高い女になど声を掛けた事があるはずもなく、ついつい何と言葉を掛ければいいのか迷っていたのだが、しかし―――そんな佐助の考えは杞憂に終わる。
 祈願が終わったのか、目の前の女がくるりとこちらを振り返ったのだ。

「―――あ…、」

 雨の中だというのに、ふわりと薫ってきた芳しい香の匂い。豪奢な打掛けの下は青を混ぜた灰色と落ち着いた重ねになっており、着物に包まれた体はしなやかで美しい。
 肩先で遊んでいる髪の色は濡れた鴉の羽のように艶や(つやや)かな黒。それが添うように流れる肌は白皙で、唯一色を引いたように紅く濡れた唇につい目が吸い寄せられてゆく。
 どこの姫君か知らないが、ここまで美しい人も稀だろう。
 それがこんな雨の中に一人歩きとはなんと無用心な、と。つらつらと埒の無い事を考えながらも視線を上げていった先、澄み切った黒瞳と出会う。
 黒曜石のように鋭さを兼ね揃えた黒瞳は美しい、美しい……が。
 この何とも言えない既視感は何だろう。

「ん……?」

 額から被せた打掛けのせいで見えなかった右半身が、女が動いた事によって露わとなる。
 相変らず整った造詣なのは言うに及ばず、ただ。―――ただ、見覚えのある額飾りを見つけた瞬間、佐助の目はこれ以上無いというほどに開かれた。
 それの意図するところがきっと相手にも伝わってしまったのだろう。一瞬、白けたように眉根を下げるが、次の瞬間人を喰ったような笑みをその美しい唇に刷いて、『目の前の女』は笑う。

「よぉ、武田の忍。手前さんもこんな雨ン中頑張るねえ」
「うっそぉ……」

 ニヤニヤ、と。戦場で何度と無く見せられた悪い笑み。
 けれど、そうであってはいけない人間が良く見せるその笑みを、何故こんなところで見ることになるのだろう。

「どうしたよ、鳩が豆鉄砲喰らったような顔して。―――んなに俺が美人か?」
「…………」

 くいっと近づけてきた顔は、少し化粧(けわい)を施しているのか、本来のそれよりも白く艶っぽい。以前より妙な色気がある人間だとは思っていたが、まさかここまで化けるとは……。
 佐助は持って行きようの無い鬱屈を口内で噛み砕き、混乱する頭を整理しようとガシガシと己の頭を掻く。
 確かにこの地は奥州で、目の前の人間が居ておかしい事も無い。一人で居るのは……、まあ不思議だが、己の主にも似たような脱走癖があるため目を瞑る。
 それにしても、だ。
 何故そんな不可思議な格好をして目の前に現れるのだと、胡乱な目つきで見下ろせば、にやりと笑う色っぽい唇。

「政(まつりごと)に厭きて(あきて)きてなあ。ちぃっと逃げてきた」
「……そんな格好で?」
「側(そく)にこういうのが好きな奴が居てな、貸してくれるっつーから借りてきたんだよ」

 あっけらかんとされた種明かし。筋はちゃんと通っている。それはもう、しっかりと。
 ―――けれど。
 一国の主たるものが、何を白昼堂々女の姿をして神社参拝などしているのかと、怒鳴りたいのは佐助だけではないだろう。

「なぁ、それより今暇か?」
「……お仕事中デス」
「よし、暇だな」
「聞いてます?」
「俺も丁度暇なんだ。いい機会だ、ちょっとその体貸せや」
「……は?」

 またこの殿様は無理難題を。悪態を付くのも面倒で、迷惑さを顔に貼り付けながら答えても一向に目の前の人間は気にした素振りを見せない。
 それどころか、楽しげにその顔に喜色を刷くだけだ。
 人のいう事は聞かないし、己の主張は曲げないし。子どもがそのまま大人になったような無邪気な笑顔を浮かべる主を持つ従者の気苦労が知れるというものだが、それに巻き込まれるようにして捕まってしまった自分はどうしたら良いのだろう。
 確かに「お仕事中」などと言い訳をしてみたが、今はいわゆる「中休み」。暇と言えば暇なのだが、出来れば次の仕事に向けて情報収集などしてたいなぁ……などと。言えるものなら忍などが存在するわけがない。
 何を血迷って他国の殿様相手に諜報任務をばらさなければならぬのか。―――否、見つかった時点で邪推されているのは必須だろうが。
 ともあれ。これ以上の面倒事は御免だと。さっさと退散願おうと重心を後ろに下げてみたのだが、目ざとく気付いた目の前の人間がするりと首に腕を絡めてきたから堪らない。

「ちょ、」
「女からの誘いを断るたぁ、色男が廃るぜえ?」
「いや、あんた女じゃないでしょう」
「普段は……な。いいから付き合え、武田の忍」
「―――俺には猿飛佐助って言う名前があんだけど」
「知ってるぜ?」
「…………」

 この人にまともな会話を期待するほうが馬鹿だった。ぐったりと項垂れてしまった佐助を横目に、美しい人はクスクス笑う。
 首に回した腕はそのままにしてあるから、己の頬に掛かる吐息がくすぐったいが、指摘するのもなにやら恥ずかしい。
 そんな佐助の微妙な心情に気付いているのかいないのか。悪戯好きなこの人は、婀娜(あだ)っぽい視線を佐助へと投げながら、愉しげに言葉を紡いでゆく。

「ここからしばらく行ったところに俺の屋敷がある。うるせえ奴らが来るまで、そこで茶でも飲んでようぜ」
「あのさ、俺が他国の忍だって、ご存知?」
「知ってるも何も、前の戦はよくも邪魔してくれやがったな」
「だってそれが俺の仕事だし」
「知ってるっての。もう御託はいいからさっさと来い。雨で体が冷え切ってやがる」
「……誰のせいで立ち話してると、」
「―――あァ?」

 面と向かって話したことは片手で余るというのに、この遠慮の無さは何だろう。先程までは散々と絡んできたくせに、目的地に向かうとあってか急に踵を返してしまった人の背中を見ながら一人ごちる。
 見たところ武装もしていないみたいだ――まあ、女装しているのだから刀など下げては居られないだろうー―し、佐助がここで刃を振りかざしたら一体どうするつもりなのだろう。
 まさかなめられているのかと思わなくも無いが、この人に限ってそんなことも無い気はするし。恐らく、考えがたいことだが佐助を信用しているのだろう。
 他国の忍を信用するお殿様なんて、寛容なのか馬鹿なのか。理解に苦しむところだが、佐助は一つ苦笑を零して目の前の人の後へと続いた。
 一度ちらりと振り返った美しい女―――否、伊達政宗はちゃんとついて来ている佐助を見て、愉しげににやりと口角を吊り上げた。
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2009/05/22 18:20 | Comments(0) | BASARA/サスダテ
クリムゾンエンパイア*カティシエ
(下の続きで、暗殺者時代妄想。やっぱり色々捏造)

 暗闇に翻る闇色のマントを追って駆けてゆく。
 彼とともに任務に当たるのは、もう幾度目になるだろう。
 暗殺者の見習いであるシエラは、任務を任されたとしても常に監視役として幹部の誰かが付き添うことになっている。たいていは昔からの知り合いであるアリクが付いてくれるのだが、今日はたまたま手が空いたとかでシエラが属する暗殺者ギルドの長、カーティス=ナイルが直々にシエラの監視役として任務に同行してくれている。
(分不相応というか、なんというか)
 普通、組織の長がわざわざ新米のために時間を裂いたりしないものだろう。
 幼い頃からの知り合いのせいか、カーティスはシエラに対して妙に過保護で困る。
(……私って、そんなに頼りなく見えるのかしら)
 ギルドの仲間たちに「どこか抜けてる」と評されるシエラは、こっそりと首を傾げた。
 これでも一応、このギルドに所属する前段階である幼児施設ではそれなりの成績で卒業したのだが。カーティスだけでなく、他の幹部にも危なっかしいと思われているようなので、シエラの疑問は深まるばかりだ。
「シエラ?」
 そんな他所事を考えていたせいだろうか。突如、前方から掛けられたカーティスの声に思わずびくりとしてしまい、ただでさえ不安定な屋根の上で一瞬体がぐらついた。
(わ、わわ……っ!!)
 見習いとは言え、シエラも暗殺者の端くれだ。気を散らして屋根から落ちたなどと知られれば、シエラの評判はおろか、師匠であるカーティス=ナイルの評判まで落としてしまうかもしれない。
 カーティスが他の人間に比べてシエラを厚遇してくれているのは眼に明らかだが、さすがに屋根から落ちたなどと初歩的なミスを犯せば見放されてしまうかもしれない――そんな焦りが、更に足元をぐらつかせたのだろう。大きくよろけた姿勢のまま屋根から足が浮いたシエラはもはや落ちるのは確実と受身の態勢を整えようとした、が。
「……何をやってるんですか、あなたは」
「う、わ……っ!」
 空へと投げ出されそうになった体はすらりとした腕によって強引に引かれ、そのままカーティスの腕の中へと包み込まれた。
 色々な意味で心臓が激しく脈動している。
 呆れられたのか、もうシエラに目をかけてはくれないのか。着衣越しに伝わるカーティスの体温に赤くなりつつ、青ざめるという器用なことをしていたシエラは、ふうと頭上から落とされた溜息に身を竦めた。
「まったく。よもや屋根から落ちるなど……。ほんとうにあなたは危なっかしくて目を離せませんね」
「す、すいません」
「これがあなたでなかったら、殺しているところです。愛しいあなただからこそお茶目で済まされますが、もしただの弟子なら八つ裂きにして鳥の餌にします」
「……」
 危なかった……っ!
 心底、自分がカーティス=ナイルのお気に入りで良かったと実感するシエラであった。
「ですが、あなたがこれからもこういうミスばかりするのなら、暗殺者になどしてはおけません」
 こちらも仕事ですからね、と続けるカーティスの表情には何の未練もないように見える。それが、酷く寂しいと感じてしまうのは、シエラの我が侭なのだろうか。
 純粋に一個人として好いてくれるのは嬉しい。だが、シエラは暗殺者になるためにここに居るのだ。個人としてのシエラだけではなく、暗殺者としてのシエラも認めて欲しい。
 そんなことを思い、自らの腕の中で暗くなるシエラに気が付いたのだろう。カーティスは優しいキスを前髪に落すと、シエラから視線を逸らすようにして話し始めた。
「僕としては、あなたを愛でるだけの籠の鳥にすることに何の異存もない。誰の眼にも触れさせず、僕だけがあなたの世界になるというのは、とても魅力的に思える」
 ですが、とカーティスは言葉を濁す。
「暗殺者として育ったあなたにも、とても興味があります。ですから、こんな馬鹿なミスはしないでくださいよ」
 心配するでしょう? と苦笑を零したカーティスは、珍しく本音を語ったのに照れたのか、ぱっとシエラから手を離してしまう。
 カーティスはシエラを愛玩動物のように可愛がるのには抵抗がないくせに、こうして一人の人間相手に真っ向な感情を向けるのはどうも苦手らしい。
「さ、早いところ帰ってゆっくり休みましょう」
 そう言い、駆け出した背中を見つめながら追いかける。
 ずっとこうして、彼の背中を追いかけていられるのだろうか。
 愛玩動物としてでもいい、暗殺者としてでもいい。できるなら、ずっと彼の背中を追って生きていたいと、シエラは今痛切に思った。

2009/03/19 20:21 | Comments(0) | 乙女ゲ
クリムゾンエンパイア*カティシエ
(幼稚園パロディです。色々捏造。笑って許して)


 ここ、暗殺者ギルド付属幼稚園では将来凄腕の暗殺者になるべく集められた子どもたちで賑わっている。
 中でも際立って目立つのは、夕焼けを溶かし込んだかのような朱色の髪を持つ少年――カーティス=ナイルだ。
 カーティスは子どもたちの中でも特に能力に秀で、数十人の子どもを抱えるこの暗殺者ギルド付属幼稚園の長とも言うべき存在になっている。そして、そんなカーティスが常に目を向け、構っている存在が。
「シエラ、ぼくからはなれてはいけないと言ったでしょう」
「でも、ミハエルが」
「いいわけは聞きません。あなたはぼくのものだと、まえから言っていたはずです。あなたは、ぼくのめいれいにしたがっていればいい」
 カーティスの赤毛を更に煮詰めたような、深紅色の髪を持つシエラ=ロザン。暗殺者としての腕については目を瞠るような特筆事項はないが、良くも悪くも人を惹きつける存在感を持つ少女である。
 カーティスは彼女がこの幼稚園に入園してきて直ぐに接触を持ち、「あなたをぼくの弟子にしてあげます」と不思議なアプローチを開始した。
 勝気なところもあるが、時折人恋しそうな顔をするシエラはそんなカーティスのアプローチに逃げ腰になりつつも、強く拒絶することもなく現状維持の状態が続いている。
 しかし、というかなんというか。自分勝手なところがあるカーティスはそれに満足せず、シエラが他の園児(特にシエラが懐いているミハエルや、エドワルド)の側に行くと明らかに機嫌が悪くなる。今日も今日とて、ミハエルに呼ばれて少しの間自分の側を離れていたシエラが気に食わず、帰ってくるなりそれを叱っているらしい。
「ぼくのそばをはなれてはきけんです。ずっとそばにいなさい」
「……でも、」
「あなたはぼくの弟子でしょう? ぼくの言うことをききなさい」
 噛んで含めるように言うカーティスに、シエラは少し不服な様子。むう、と尖った口が傍目にも愛らしい。
「あなたのためをおもって言ってるんです。……わかりましたね?」
「……やだ」
「シエラ」
「だって、」
「……」
「……」
 見詰め合うこと数秒。シエラはびくびくと腰が引けているが、カーティスはどこまでも真剣な表情でシエラの顔を見つめている――、と。
『ちぅ』
 突如、カーティスがシエラに不意打ちのキスをした。
「……あぅ」
「いいですね、シエラ?」
「でも、でも」
「もういっかいキスされたいんですか?」
「や、やだ」
「ほんとうに……?」
「///」
 それに照れて紅くなるシエラ。更に追い詰めるカーティス、と。最近見慣れ始めた光景に、ここ暗殺者ギルドの保育士でもあり暗殺者としての先達でもあるアリクは、溜息を吐きつつ目を逸らした。
 まだまだ幼いくせに色気過剰なカーティスは、色事に疎いシエラをからかうのが愉しくて仕方が無いらしい。
 こうして迫っては、またそれ故に遠巻きにされると気付いているのかいないのかは知らないが、毎度毎度よく飽きないと思うほどにシエラに構っては赤面させている。
「まっかになってる。鼻血はださないでくださいよ?」
「だっださないもん!」
「じゃあ、ほんとうにでないかためしてみましょうか」
「え、えっ?」
「ほら、もういっかい……」
 わたわたと動転するシエラに、隙ありとばかりにキスをするカーティス。
(……他の園児たちが真似しなければいいが)
 そんなアリクの心配など露知らず、ませたお子様はお気に入りの少女をたらしこむことに余念がないご様子だった。

2009/03/17 14:33 | Comments(0) | 乙女ゲ

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