(下の続き)
「土方さーん、お客さん連れてきましたよー」
政宗たちを案内した男――名前は沖田総司と言うらしい――は、玄関を上がると奥に向かって声を張り上げながら、政宗たちにはここに待っているように言い渡してさっさと奥へと入ってしまった。
長くて広い廊下の両側にはずらずらと対の襖が並び、壮観ともいえる造りになっている。思わず伊達の本陣もこんな風に造り変えてえなぁ…と思っていた政宗の思考はどうやら筒抜けだったようで、後ろに控えていた小十郎から「駄目ですから」と忠告が言い渡された。
「改築したいなんて言えば、兄上の雷が落ちます」
「……でもよ、そろそろあの家も狭くなってきたし」
「駄目です」
「組織も大きくなってきて、見得も張りてえし……」
「駄、目、で、す」
「……」
「兄上に相談してみるのは止めませんが、小十郎は一切関知しませんのでそのおつもりで」
「鬼かてめえは……!!」
小十郎が言う「兄上」とは小十郎の異父兄でもある鬼庭綱元だが、綱元は顧問弁護士として伊達組を守る傍ら、伊達組の財布まで握っているという政宗にしてはどうやっても頭の上がらない人物だ。
普段は質素な生活を心がけているくせに、自分の興味を惹くものがあると値を厭わずに手を出してしまう政宗の悪癖を誰よりも嘆き――そして誰よりも叱咤してくる綱元に一人で対抗するなど、天と地が引っくり返っても無理に決まっている。がっくりと項垂れた政宗をどうやって浮上させれば良いものかとひそかに悩んでいた猿飛は、しかし小気味いい音を立てて開かれた襖の奥から出てきた人物を眼にして、思索をやめた。
「――誰が鬼だって?」
政宗たちを玄関まで案内してきた沖田をはじめ、隙のない足運びで廊下を進んでくる五人を従えた和装の男――新誠会会長代行たる土方歳三の威風堂々たる姿に、打ちひしがれていた政宗も一瞬にしてその表情を凛としたものへと変えた。
「そりゃあ、土方さんのことなんじゃねえの? なんせ、鬼の代行って言われてるくらいだし」
「違いねえや」
「他所の組織の幹部にまでそんな異名が轟いてるとはねー。土方さんも出世したってことかな?」
「悪名だからこそ轟いてるんじゃねえのー?」
「……否定はできんな」
けたけたと笑いながらも、それぞれの双眸は油断なく来訪者の気配を探っている。
自身が率いる伊達組も武闘派として知られた存在ではあるが、眼前の連中のように笑いながら圧倒的な殺気を振り撒ける人間はさほど多くはない。
「おもしれえ……」
きっと刃を交えれば、これ以上ないほど楽しませてくれる連中だろう。
自分が謝罪に来たことも忘れて、好戦的に目をぎらつかせ始めた政宗を流石にまずいと思ったのだろう。隣で沈黙を続けていた猿飛は瞳孔が引き締まってゆく政宗の肩を掴んで揺さぶり、現実へと無理矢理引き戻した。
「ちょ、あんた今日ここに来た理由忘れてないでしょうねっ?!」
「あ?……ああ、」
忘れかけていたとは言えずに、政宗は口ごもる。
龍志会の幹部になってしまってからは控えているとは言え、政宗は元々伊達組の次期組長という立場ながら真っ先に相手の事務所に踏み込んでいった根っからの好戦者だ。自らを楽しませてくれそうな相手がいれば、ついつい目を輝かせて戦う機会を覗ってしまう。しかし、今回は龍志会からの謝罪を届けるための使者としてこの場に赴いているのだ。それではまずかろうと、一応は気を取り直してみたのだが。
「……てめえら、余計なことばかりくっちゃべりやがって。簀巻きにして海に放り込まれてえか」
「いやだな、土方さん。ただの冗談じゃないですか、冗談」
「そそ、だぁれも本当に土方さんが鬼みたいだなんて思っちゃいませんて」
「……なんせ、本当に鬼だもんな」
「偽物扱いしちゃあ申し訳ねえってもんよ」
「……左之、新八。声が高いぞ」
「――聞こえてんだよ、てめえら…ッ!」
凛々しい顔を怒りに染めた土方に怒鳴られても、後ろに控える面々は痛くも痒くもないらしい。
妙な団結力はあるくせに中々思い通りにならない仲間を持つものの苦しみがわかるのか、隣に居る猿飛と後ろに控える小十郎が見てられないとばかりに目を背けたのを見て、政宗はほんの少し良心が痛んだ。
「ほらほら土方さん、お客さんがお待ちですって。いい加減怒るのやめて――」
「誰のせいで怒ってると思ってんだ、ああ?!」
「えー? 僕のせいじゃないし……。平助君のせいじゃない?」
「俺かよ?! 違ぇよ、左之さんだろぉ?」
「それこそ俺じゃねえよ。なあ、新八」
「いや。おまえが悪い」
「……てめえ、裏切んのか、この……っ」
「やめろ左之。非は潔く認めておけ」
「ほらほら土方さん、左之さんもああ言ってることだし、そろそろ許してあげたら――」
「黙ってろ!!!」
「「「……」」」
どうやら話し合いが出来るのは、まだしばらく先らしい。
「土方さーん、お客さん連れてきましたよー」
政宗たちを案内した男――名前は沖田総司と言うらしい――は、玄関を上がると奥に向かって声を張り上げながら、政宗たちにはここに待っているように言い渡してさっさと奥へと入ってしまった。
長くて広い廊下の両側にはずらずらと対の襖が並び、壮観ともいえる造りになっている。思わず伊達の本陣もこんな風に造り変えてえなぁ…と思っていた政宗の思考はどうやら筒抜けだったようで、後ろに控えていた小十郎から「駄目ですから」と忠告が言い渡された。
「改築したいなんて言えば、兄上の雷が落ちます」
「……でもよ、そろそろあの家も狭くなってきたし」
「駄目です」
「組織も大きくなってきて、見得も張りてえし……」
「駄、目、で、す」
「……」
「兄上に相談してみるのは止めませんが、小十郎は一切関知しませんのでそのおつもりで」
「鬼かてめえは……!!」
小十郎が言う「兄上」とは小十郎の異父兄でもある鬼庭綱元だが、綱元は顧問弁護士として伊達組を守る傍ら、伊達組の財布まで握っているという政宗にしてはどうやっても頭の上がらない人物だ。
普段は質素な生活を心がけているくせに、自分の興味を惹くものがあると値を厭わずに手を出してしまう政宗の悪癖を誰よりも嘆き――そして誰よりも叱咤してくる綱元に一人で対抗するなど、天と地が引っくり返っても無理に決まっている。がっくりと項垂れた政宗をどうやって浮上させれば良いものかとひそかに悩んでいた猿飛は、しかし小気味いい音を立てて開かれた襖の奥から出てきた人物を眼にして、思索をやめた。
「――誰が鬼だって?」
政宗たちを玄関まで案内してきた沖田をはじめ、隙のない足運びで廊下を進んでくる五人を従えた和装の男――新誠会会長代行たる土方歳三の威風堂々たる姿に、打ちひしがれていた政宗も一瞬にしてその表情を凛としたものへと変えた。
「そりゃあ、土方さんのことなんじゃねえの? なんせ、鬼の代行って言われてるくらいだし」
「違いねえや」
「他所の組織の幹部にまでそんな異名が轟いてるとはねー。土方さんも出世したってことかな?」
「悪名だからこそ轟いてるんじゃねえのー?」
「……否定はできんな」
けたけたと笑いながらも、それぞれの双眸は油断なく来訪者の気配を探っている。
自身が率いる伊達組も武闘派として知られた存在ではあるが、眼前の連中のように笑いながら圧倒的な殺気を振り撒ける人間はさほど多くはない。
「おもしれえ……」
きっと刃を交えれば、これ以上ないほど楽しませてくれる連中だろう。
自分が謝罪に来たことも忘れて、好戦的に目をぎらつかせ始めた政宗を流石にまずいと思ったのだろう。隣で沈黙を続けていた猿飛は瞳孔が引き締まってゆく政宗の肩を掴んで揺さぶり、現実へと無理矢理引き戻した。
「ちょ、あんた今日ここに来た理由忘れてないでしょうねっ?!」
「あ?……ああ、」
忘れかけていたとは言えずに、政宗は口ごもる。
龍志会の幹部になってしまってからは控えているとは言え、政宗は元々伊達組の次期組長という立場ながら真っ先に相手の事務所に踏み込んでいった根っからの好戦者だ。自らを楽しませてくれそうな相手がいれば、ついつい目を輝かせて戦う機会を覗ってしまう。しかし、今回は龍志会からの謝罪を届けるための使者としてこの場に赴いているのだ。それではまずかろうと、一応は気を取り直してみたのだが。
「……てめえら、余計なことばかりくっちゃべりやがって。簀巻きにして海に放り込まれてえか」
「いやだな、土方さん。ただの冗談じゃないですか、冗談」
「そそ、だぁれも本当に土方さんが鬼みたいだなんて思っちゃいませんて」
「……なんせ、本当に鬼だもんな」
「偽物扱いしちゃあ申し訳ねえってもんよ」
「……左之、新八。声が高いぞ」
「――聞こえてんだよ、てめえら…ッ!」
凛々しい顔を怒りに染めた土方に怒鳴られても、後ろに控える面々は痛くも痒くもないらしい。
妙な団結力はあるくせに中々思い通りにならない仲間を持つものの苦しみがわかるのか、隣に居る猿飛と後ろに控える小十郎が見てられないとばかりに目を背けたのを見て、政宗はほんの少し良心が痛んだ。
「ほらほら土方さん、お客さんがお待ちですって。いい加減怒るのやめて――」
「誰のせいで怒ってると思ってんだ、ああ?!」
「えー? 僕のせいじゃないし……。平助君のせいじゃない?」
「俺かよ?! 違ぇよ、左之さんだろぉ?」
「それこそ俺じゃねえよ。なあ、新八」
「いや。おまえが悪い」
「……てめえ、裏切んのか、この……っ」
「やめろ左之。非は潔く認めておけ」
「ほらほら土方さん、左之さんもああ言ってることだし、そろそろ許してあげたら――」
「黙ってろ!!!」
「「「……」」」
どうやら話し合いが出来るのは、まだしばらく先らしい。
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(極道パロ内でBASARAと薄桜鬼のWキャスト話)
目の前には伊達組本家にも劣らない立派な門構えをした和風建築が居を構えている。
本来なら感嘆の一つでもあげたいところだが、ここに来ざるを得なかった理由が理由のせいで、そんな陽気な気分にはとてもではないがなれない。伊達政宗は苦々しい顔を隠しもせずに重い溜息を吐き出すと、八つ当たり混じりに隣で自分と同じように目の前の屋敷を眺めている男に噛み付いた。
「ったく…だいたいよお、なんで俺まで他人の謝罪のために出張ってこなきゃなんねえんだよ。誠意見せるなら、No.2のおまえが行くだけで事足りるだろうが」
「それはほら、謝意がまったくないNo.3でも居ないよりは居た方がいいって奴じゃない?」
「……帰る」
「――ってのは冗談でー、やっぱ組織の幹部には威厳ってもんが必要じゃない? 俺はあんまり幹部っぽくないからさあ」
それに真田の旦那からの厳命だし。にこにことほざく男の腹の中を掻っ捌いて覗いてやりたい。きっと外に漏らせば非難轟々な言葉がどろどろと渦巻いているのだろう。
真田も、何を思ってこんな人選をしてくれたのか……。
政宗は今更過ぎる鬱屈を溜息とともに吐き出しながら、目の前の屋敷に陣を張る組織のことを思った。
――会津組二次団体、新誠会。
会長の近藤勇をはじめ、会長代行の土方、運営委員長の斎藤など手錬揃いの武闘派集団で有名なこの組織は、関西に根を張る会津組の下部組織だ。
どちらかと言わずとも、関西にも拠点を広げている龍志会とは敵対している組織のひとつで、本来なら龍志会の幹部である自分たちが気楽に近寄っていい場所では決してない――が、今回は理由あって龍志会の最高幹部たる政宗と猿飛がわざわざ敵の本拠地まで足を運んできたのだ。
元はといえば新誠会と龍志会の二次団体である渡辺組の間で起こった問題だったのだが、普段から仲が良いとは言えない新誠会との話し合いの場は荒れに荒れた。しかも、分が悪いことに過失はあきらかに渡辺組の方にあり、もはや渡辺組の組長である佐々木よりも上役の自分たちが出てくるほかない状況だったのだ。
問題を起こした組員を引き連れて詫びに来た佐々木は青ざめながら頭を下げていたが、謝られた程度でこの面倒を引き受ける気になどなれない。
会津の下部組織である新誠会は以前から気になっていたし、ただの様子伺いで尋ねるというならばこれといった文句もなく関西入りしただろうが、今回は別だ。へまをした下部組織のために頭を下げる。いくらそれが最高幹部としての役割だとはいえ、自分の下部組織でもない(佐々木は武田の子分にあたるので、政宗から見れば兄弟分だ)連中のために頭を下げるのは気が向かない。こういう面倒事は折衝のとくいな猿飛に全て押し付けて自分はさっさと逃げようと思っていたのに、よりにもよって真田直々に名指しの指名を受けてしまった。曰く。
(きっと政宗殿なら新誠会の幹部の方々に気に入られるでござろう)
ということで、元から行く予定だった猿飛に加え、いやだ断ると盛大にごねた政宗が関西に派遣され――今に至るという事だ。
純和風な造りの門構えには似合わない電子チャイムを鳴らし、用向きを告げて数分。こちらもある程度武装しているとは言え、人数で言えば圧倒的に敵方に劣るだろうこの状況に神経がぴりぴりと痛む。
まさか両組織合意の上で行なわれる会合でドンパチなど仕掛けてこないだろうが、万が一という事がある。幹部である自分たち二人以上に緊張した面持ちを見せる同行者たちを背後に抱えながらひっそりと溜息を吐いた政宗は、そんな緊張した空気を消し去るかのように掛けられた能天気な声に眉を寄せた。
「はいはーい、今開けますからちょっと待ってて下さいねー」
「「……」」
どこまでものんびりとした、緊張感のない声。
ここが自軍の本拠地だということもあるのだろうが、一応は敵対している組織の幹部を待たせているのだ。もう少し、こう、緊張というか誠意ある対応というか……。
政宗のこめかみがぴくぴくと引き攣っているのに気が付いたのだろう。政宗の斜め後ろに控えていた小十郎が「政宗さま、」と窘めるような声を掛けてくる。その声にひとまず困惑を押し留めてはみたのだが、見守っていた門が開いた先――にこにこと場に不釣合いな笑顔を浮かべた和装の男を視界に納めると、一度は納めた腹の虫がぞわりと音を立てるのを感じた。
「うわ、本当にその人数で来たんだ。やっぱり龍志会の幹部ともなると度胸も人一倍ってことなのかな」
にこにこと。あまりにも楽しげに笑う男の顔に、自分の大嫌いな男の印象が重なる。
「……おい、猿飛」
「……俺に振らないでよ」
「間違いなく、あれは、おまえの、同類だろうが……ッ!」
じろりと睨みすえた先、我関せずを貫いていた男の頬がぴくりと引き攣っているのを見る。
政宗を目を合わせないのは認めたくない事実と目を合わせるのが厭なのか。「わあ、それにしても見るからに物騒な集団だなあ。あははは」と笑う自分は、明らかに隣の男同様わかっているのに空気を読まずに、自分の楽しみを優先する類だ。
一句ごと言葉を切りながら訴える政宗を見ないようにしていた佐助は、唇を引き攣らせながら「俺はあそこまで酷くない」と逃げた。
「こんな場面でおちゃらけられるほど、俺の神経は太かないよ、伊達さん」
「嘘吐け! 俺の事務所に出張ってきてはあんな風にいちゃもんつけてきやがる癖しやがって!!」
「あれは、ほら。挨拶みたいなもんだから……」
「ならあれにも挨拶しかえせよ! てめえの得意分野だろうが!!」
「えー……」
心底厭そうな声を出す猿飛はもはや役に立たないと見て、政宗は大きな嘆息を吐いてから渦中の人物へと視線を流した。
途中からはヒートアップしてしまい、声音を抑えられていなかっただろうに、当の本人はにこにこ笑いを崩さずに居る。
……やはり、こいつと同類だ。
政宗は役立たずの烙印を押した隣の男に内心蹴りを入れながら、まずは先にと「この度は……」と口上を口にしようとしたが、「待って」という男の制止によってそれ以上の言葉は言わせてもらえなかった。
「用件は中に入ってからにしてくれるかな。僕に言われても、困っちゃうし」
「はあ、」
「だいたい、僕に謝罪なんて必要ないですよ。僕は問答言わずにそっちに討ち入ろうって主張してたんだから、謝罪して欲しいとも思ってないし」
「……」
「謝罪を受け入れて穏便に済ませようとしてるのは近藤さんたちだしね。謝罪は、そっちにどうぞ」
にこにこにこ。
笑っているのに、言っている事がえげつない。
思わず隣の男へと視線を流すと、見ないでくれとばかりに掌で横顔を隠してきた。どうやら、どこか痛む場所があるらしい。
政宗はもう一度大きな溜息を吐いてから、案内をすると言って背を向けた男に従って歩き始めた。
目の前には伊達組本家にも劣らない立派な門構えをした和風建築が居を構えている。
本来なら感嘆の一つでもあげたいところだが、ここに来ざるを得なかった理由が理由のせいで、そんな陽気な気分にはとてもではないがなれない。伊達政宗は苦々しい顔を隠しもせずに重い溜息を吐き出すと、八つ当たり混じりに隣で自分と同じように目の前の屋敷を眺めている男に噛み付いた。
「ったく…だいたいよお、なんで俺まで他人の謝罪のために出張ってこなきゃなんねえんだよ。誠意見せるなら、No.2のおまえが行くだけで事足りるだろうが」
「それはほら、謝意がまったくないNo.3でも居ないよりは居た方がいいって奴じゃない?」
「……帰る」
「――ってのは冗談でー、やっぱ組織の幹部には威厳ってもんが必要じゃない? 俺はあんまり幹部っぽくないからさあ」
それに真田の旦那からの厳命だし。にこにことほざく男の腹の中を掻っ捌いて覗いてやりたい。きっと外に漏らせば非難轟々な言葉がどろどろと渦巻いているのだろう。
真田も、何を思ってこんな人選をしてくれたのか……。
政宗は今更過ぎる鬱屈を溜息とともに吐き出しながら、目の前の屋敷に陣を張る組織のことを思った。
――会津組二次団体、新誠会。
会長の近藤勇をはじめ、会長代行の土方、運営委員長の斎藤など手錬揃いの武闘派集団で有名なこの組織は、関西に根を張る会津組の下部組織だ。
どちらかと言わずとも、関西にも拠点を広げている龍志会とは敵対している組織のひとつで、本来なら龍志会の幹部である自分たちが気楽に近寄っていい場所では決してない――が、今回は理由あって龍志会の最高幹部たる政宗と猿飛がわざわざ敵の本拠地まで足を運んできたのだ。
元はといえば新誠会と龍志会の二次団体である渡辺組の間で起こった問題だったのだが、普段から仲が良いとは言えない新誠会との話し合いの場は荒れに荒れた。しかも、分が悪いことに過失はあきらかに渡辺組の方にあり、もはや渡辺組の組長である佐々木よりも上役の自分たちが出てくるほかない状況だったのだ。
問題を起こした組員を引き連れて詫びに来た佐々木は青ざめながら頭を下げていたが、謝られた程度でこの面倒を引き受ける気になどなれない。
会津の下部組織である新誠会は以前から気になっていたし、ただの様子伺いで尋ねるというならばこれといった文句もなく関西入りしただろうが、今回は別だ。へまをした下部組織のために頭を下げる。いくらそれが最高幹部としての役割だとはいえ、自分の下部組織でもない(佐々木は武田の子分にあたるので、政宗から見れば兄弟分だ)連中のために頭を下げるのは気が向かない。こういう面倒事は折衝のとくいな猿飛に全て押し付けて自分はさっさと逃げようと思っていたのに、よりにもよって真田直々に名指しの指名を受けてしまった。曰く。
(きっと政宗殿なら新誠会の幹部の方々に気に入られるでござろう)
ということで、元から行く予定だった猿飛に加え、いやだ断ると盛大にごねた政宗が関西に派遣され――今に至るという事だ。
純和風な造りの門構えには似合わない電子チャイムを鳴らし、用向きを告げて数分。こちらもある程度武装しているとは言え、人数で言えば圧倒的に敵方に劣るだろうこの状況に神経がぴりぴりと痛む。
まさか両組織合意の上で行なわれる会合でドンパチなど仕掛けてこないだろうが、万が一という事がある。幹部である自分たち二人以上に緊張した面持ちを見せる同行者たちを背後に抱えながらひっそりと溜息を吐いた政宗は、そんな緊張した空気を消し去るかのように掛けられた能天気な声に眉を寄せた。
「はいはーい、今開けますからちょっと待ってて下さいねー」
「「……」」
どこまでものんびりとした、緊張感のない声。
ここが自軍の本拠地だということもあるのだろうが、一応は敵対している組織の幹部を待たせているのだ。もう少し、こう、緊張というか誠意ある対応というか……。
政宗のこめかみがぴくぴくと引き攣っているのに気が付いたのだろう。政宗の斜め後ろに控えていた小十郎が「政宗さま、」と窘めるような声を掛けてくる。その声にひとまず困惑を押し留めてはみたのだが、見守っていた門が開いた先――にこにこと場に不釣合いな笑顔を浮かべた和装の男を視界に納めると、一度は納めた腹の虫がぞわりと音を立てるのを感じた。
「うわ、本当にその人数で来たんだ。やっぱり龍志会の幹部ともなると度胸も人一倍ってことなのかな」
にこにこと。あまりにも楽しげに笑う男の顔に、自分の大嫌いな男の印象が重なる。
「……おい、猿飛」
「……俺に振らないでよ」
「間違いなく、あれは、おまえの、同類だろうが……ッ!」
じろりと睨みすえた先、我関せずを貫いていた男の頬がぴくりと引き攣っているのを見る。
政宗を目を合わせないのは認めたくない事実と目を合わせるのが厭なのか。「わあ、それにしても見るからに物騒な集団だなあ。あははは」と笑う自分は、明らかに隣の男同様わかっているのに空気を読まずに、自分の楽しみを優先する類だ。
一句ごと言葉を切りながら訴える政宗を見ないようにしていた佐助は、唇を引き攣らせながら「俺はあそこまで酷くない」と逃げた。
「こんな場面でおちゃらけられるほど、俺の神経は太かないよ、伊達さん」
「嘘吐け! 俺の事務所に出張ってきてはあんな風にいちゃもんつけてきやがる癖しやがって!!」
「あれは、ほら。挨拶みたいなもんだから……」
「ならあれにも挨拶しかえせよ! てめえの得意分野だろうが!!」
「えー……」
心底厭そうな声を出す猿飛はもはや役に立たないと見て、政宗は大きな嘆息を吐いてから渦中の人物へと視線を流した。
途中からはヒートアップしてしまい、声音を抑えられていなかっただろうに、当の本人はにこにこ笑いを崩さずに居る。
……やはり、こいつと同類だ。
政宗は役立たずの烙印を押した隣の男に内心蹴りを入れながら、まずは先にと「この度は……」と口上を口にしようとしたが、「待って」という男の制止によってそれ以上の言葉は言わせてもらえなかった。
「用件は中に入ってからにしてくれるかな。僕に言われても、困っちゃうし」
「はあ、」
「だいたい、僕に謝罪なんて必要ないですよ。僕は問答言わずにそっちに討ち入ろうって主張してたんだから、謝罪して欲しいとも思ってないし」
「……」
「謝罪を受け入れて穏便に済ませようとしてるのは近藤さんたちだしね。謝罪は、そっちにどうぞ」
にこにこにこ。
笑っているのに、言っている事がえげつない。
思わず隣の男へと視線を流すと、見ないでくれとばかりに掌で横顔を隠してきた。どうやら、どこか痛む場所があるらしい。
政宗はもう一度大きな溜息を吐いてから、案内をすると言って背を向けた男に従って歩き始めた。